「今日、健康診断なんですけど、ちょっと熱っぽくて」
受付に立っていると、朝いちばんにこう相談されることがあります。健康診断の受付を24年やってきて、毎年、必ず何人かはいます。
先に、正直なことを書いておきます。
そう言われたとき、ぼくが内心で思っているのは、こういうことです。
「その体調なら、今日行くのは健診じゃなくて、病院じゃないかな」
健診と病院は、役割がまったく違います。健診は「今は元気だけれど、悪いところが隠れていないか」を調べる場所です。今つらい症状があるなら、それを診てもらうのは病院の仕事です。熱があるのに健診会場に来ても、その熱を診てもらえるわけではありません。
ただ、ぼくはそれを口には出しません。
来てくださった方は、受け付けます。 「今日はやめて病院に行ってください」と受付が言うことはありません。それは受診者ご本人が決めることですし、追い返すのは受付の仕事ではないからです。だから24年、思うだけで飲み込んできました。
でも、来る前に読んでもらえるなら、話は別です。
この記事は、そのために書いています。健診の日の朝、体調が悪くて迷っている方が、会場に着く前にこれを読んでくれたら。それだけを思って書きました。
以下は、ぼくが24年の現場で見てきた「なぜ無理しないほうがいいのか」の理由です。医学の話ではなく、健診という仕組みの話です。
健診の結果は、その日に出た数値で判定される
まず、いちばん大事なところから書きます。
健康診断の結果は、その日に測った数値に対して、そのまま判定が出ます。
「この人は当日、熱があったから、この数値は差し引いて考えよう」——そういう調整は、入りません。ぼくがこれまで経験した4社の健診機関では、どこもそうでした。出た数値に対して、基準の範囲に入っているかどうかの判定が出る。それだけです。
他の健診機関のことは分かりません。ただ、少なくともぼくが見てきた範囲では、事情を汲んでくれるようなカスタマイズは、できる仕組みになっていませんでした。
「問診票に書いておけば大丈夫」は、たぶん違う
ここは、ぼく自身も長く誤解していたところです。
「体調が悪かったことを問診票に書いておけば、後で医師が分かってくれる」。そう思っている方は多いですし、実際そう説明されることもあります。
でも、少なくともぼくの経験した現場では、問診票の記載が判定を変えることはありませんでした。
薬も同じです。風邪薬を飲んでから来た方が、それを申告したとします。それでも、血液の検査もその他の検査も、出た数値に対しての判定が出るだけでした。「服薬中なので参考値」といった扱いになるわけではないんです。
(ただし、飲んでいる薬を聞かれたら答えてください。判定とは別に、当日の検査を安全に受けるために必要な確認があります。)
だから、体調が悪い日に受けると損をする
ここまでを合わせると、こういうことになります。
体調が悪い日に受ける。ふだんと違う数値が出る。でもシステムは「その日たまたま熱があった」ことを知らないので、ふだんと違う数値のまま判定する。結果、「要再検査」の案内が届く。
そして受け直したら、何ともなかった。
このパターン、毎年あります。半日つぶして受けて、また別の日に半日つぶして受け直すことになる。だったら最初から、体調のいい日に一度受けたほうが早いんです。
健診は「今の体の状態を正確に知るため」のものです。ふだんと違う日に測っても、知りたいことが分かりません。
それでも、みんな無理して来る
24年見てきて思うのは、「健診は、休んではいけないもの」と思い込んでいる人が多いということです。
会社にまとめて予約されている。同僚も同じ日に受ける。日程を変えると迷惑がかかる気がする。有給を取り直すのが大変。理由はさまざまですが、少し無理をして来てしまう。
気持ちは、よく分かります。ぼくも会社員なので。
でも実際のところ、当日に受けられなかった人の対応は、どの現場でも決まっています。珍しいことでも、迷惑なことでもありません。毎回、必ず何人かはいます。
以前、「クレームは「待ち時間」ではなく「不安」から生まれる」という記事を書きました。体調のことも同じで、黙って並んでいるほうがつらくなります。先に言ってもらえれば、こちらが動けます。
受付で、内心いちばん強く思うのはこういうとき
これはぼくの個人的な感覚で、医学的な基準ではありません。その前提で読んでください。
繰り返しますが、こういう方が来ても、ぼくは受け付けます。口には出しません。ただ、内心で「今日じゃなくてもいいのに」といちばん強く思うのは、こういうときです。
・38度前後の熱がある
・立っているのがつらいほど、ふらつきがある
・嘔吐や下痢が続いている
・インフルエンザなど、感染性の症状が疑われる
この状態だと、正確な結果が取りにくいうえに、バリウムを飲む胃の検査や、運動の負荷をかける心電図など、体に負担のかかる項目がかなりつらくなります。検査の途中で気分が悪くなって、休憩をはさむ方を何度も見てきました。
待合室には、他の受診者もいます。感染性の症状が疑われるときは、なおさら無理をしないほうがいい、というのが正直なところです。
そしてこの状態のとき、飲み込んでいる言葉がこれです。その症状は、病院で診てもらったほうがいい。 健診に来ても、今日のその熱も、その痛みも、診てはもらえません。健診はそういう場所ではないんです。
受付では言えないので、ここに書いておきます。
「健康診断は「受けるだけ」でもしんどい」という記事にも書きましたが、体調が悪い日は、その「しんどい」がふだんの倍になります。
別の日に受けるには、どうすればいい?
やることは、そんなに多くありません。
会社の健診なら、まず担当部署に一本連絡を入れてください。「今日は体調が悪くて受けられませんでした」。それだけで、後日の対応を案内してもらえることがほとんどです。
個人で予約したものなら、予約先に電話をして日程を変えてもらいます。
当日の朝に会場まで来てしまった場合は、受付でそのまま相談してください。ぼくの現場では、その場で看護師や医師に確認してもらったり、負担の大きい項目だけ後日に回したり、問診と採血だけ済ませて残りを別日にしたり、といった対応をしています。会場や委託先によってできることは違いますが、「体調が悪いので相談したい」と言われて、何もしないことはまずありません。
まとめ:受付では言えないので、ここに書きました
24年受付をやってきて言えることを、まとめます。
・健診と病院は役割が違う。今つらい症状を診てもらう場所ではない
・健診の結果は、その日に出た数値でそのまま判定される
・ぼくの経験した4社では、問診票の記載や服薬の申告で判定が変わることはなかった
・だから体調の悪い日に受けると、再検査になって二度手間になりやすい
・38度前後の熱、強いふらつき、嘔吐下痢が続くときは、無理をしないほうがいい
・別の日に受けるための窓口は、どの会社にもある。連絡すればいい
健診は、逃げません。今日でなくても受けられます。
無理して受けて、ふだんと違う数値で判定されて、また受け直す。その半日を二度使うくらいなら、体調のいい日に一度、落ち着いて受けてください。そのほうが、ご自身の体のことが正確に分かります。
冒頭にも書いたとおり、ぼくは受付なので、来た方には「おはようございます」と言って受け付けます。それが仕事です。24年、そうしてきました。
だから、この記事を書きました。会場に着いてしまったら、ぼくはもう何も言えません。着く前に、これを読んでくれた方がいたらいいなと思っています。
なお、ここに書いたのは受付を24年やってきた立場から見えたことで、医学的な判断ではありません。体調のことで気になる症状があるときは、当日の医療スタッフや、かかりつけの医療機関にご相談ください。
よくある質問
生理中でも健康診断は受けられますか?
受けられます。ぼくの現場では、生理中を理由に日を改めてもらったことはありません。
むしろ、企業によっては生理中でも尿を採るように決められているところがあります。健保組合の方針によるものだと思いますが、現場としてはその指示に沿って受け付けています。気になる場合は、受付でひとこと伝えてください。
当日に体調不良で受けられなかった場合、料金はどうなりますか?
会場や契約によって違います。会社の健診なら、費用は会社と委託先の契約で決まっていることが多く、個人の負担が発生しないケースが一般的です。まずは会社の担当部署に確認してください。
風邪薬を飲んでから受けても、結果に反映されますか?
ぼくが経験した4社では、反映されませんでした。薬を飲んでいることを申告しても、血液の検査もその他の検査も、出た数値に対しての判定が出るだけです。「服薬中なので参考値」といった調整は入りませんでした。
他の健診機関のことは分かりません。ただ「書いておけば考慮してもらえる」と期待して無理に受けるのは、おすすめしません。
なお、飲んでいる薬を聞かれたときは、判定とは別に当日の検査の安全にかかわるので、正直に答えてください。
二日酔いの状態で受けたら、結果に出ますか?
出ます。そして、その数値のまま判定されます。
肝機能の数値や中性脂肪は、前日の飲酒の影響を受けやすいと言われています。ふだんの状態を知りたいなら、前日は控えめにしておいてください。
日々の現場での気づきは、Xでも書いています。
👉 @genba50ai
